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『冥途』によせて
この芝居を書きはじめて、ある晩、夢を見た。
芝居の打合せのため、スタッフが我が家にやってきた。
「ちょっとお待ちください」
茶の間に彼らを座らせ、書きかけのホンを探すが、見つからない。
しかも私はさっきから便所に行きたくてしょうがない。
「おまえも探せ!」
妻に命じ、私はもはや我慢ならず、便所に駆け込んだ。
あった、あった。と、便所のドアの向こうで妻の声がする。
それからスタッフたちの笑い声。
私の書いたホンの悪口を言い合いながら、勝手にテキレジをはじめたらしい。
またべつの晩、こんな夢を見た。
妻が初めての海外旅行で浮かれていると、空港ロビーで、職員の男にこっぴどく叱られて、しゅんとうつむいてしまった。
私が職員の男に詰め寄ると、男は小馬鹿にしたように鼻で笑った。
それでもう私は完全に頭にきて、男の胸ぐらをつかみ、拳を振り上げたのだけれど、殴れば自分が悪者になってしまう。
ぐっと怒りをこらえ、男の名札に目をやった。「安為」と書かれてある。なんと読むのだろう?
ともかく、その名を反芻して記憶に刻む。安為、安為、安為安為安為…。なんだかスペースインベーダーみたいだ。このインベーダー、いったいどうしてくれようか。
と、そこで目が覚めた。
どうせ夢なら安為の野郎をぶん殴っておくんだったと私が思った。
ピタパタ代表 今井一隆
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